産業空洞化に立ち向かう私たちの提言


1、なぜいま提言をおこなうのか
 大企業は円高、貿易摩擦による輸出の不利を回避しようと生産拠点の海外移転と現地からの輸出を進め、このために国内工場の縮小・閉鎖、下請・関連中小企業の切り捨てなど、倒産・失業を増大させ、地域の経済・産業を破壊し空洞化させてきた。さらに賃金・人件費や原材料・エネルギーが安く、低コスト生産のできる発展途上国、とくに中国に進出の重点をおくようになり、低価格の現地産品の逆輸入による価格破壊で国内市場を席巻し、関連する地場産業を破綻させるなど産業空洞化の被害を拡大させてきた。地域経済振興のために多大な資金も投じて工場誘致をしてきた地方自治体にとっても、海外移転による工場閉鎖は大きな損害であり、産業空洞化を大企業の横暴として、社会問題化させるようになった。
 大企業は、産業空洞化とリストラによって地域経済を破壊し、労働者・中小企業に犠牲を押しつけながら、グローバルな展開を追求することで、その利益を拡大した。そして、国際的な資本提携、統合、M&Aを進めて事業を拡大し、海外生産が国内生産を超える大企業も増加するなど、本格的な多国籍企業としての体制を固めるに至った。さらにいま、海外進出で途上国の経済・産業を発展させ、その市場が広がった状況を踏まえて加速した中国への進出にみられるように、現地市場のための海外投資、生産・事業拠点の設置をはかり、より積極的なグローバル経営戦略を打ち出すに至った。
 かくして産業空洞化は、これまでより拡大した新たな段階の展開を示している。それは国民経済をゆがめ、地域経済と中小企業だけでなく、広く労働者・国民の生活にいっそう深刻な打撃を与えるものになろうとしている。
 日本経団連は「東アジア自由貿易圏」の確立を唱え、「交易立国」への転換をめざして、03年2月「活力と魅力溢れる日本をめざして」と銘打った「新ビジョン」を発表し、「MADE"BY"JAPAN」の新たなグローバル経営戦略の推進を提起した。そして、その具体的実践を「2004年版経営労働政策委員会報告」で示した。「日本の技術や資本を海外に投入し、それを使って日本はもとより世界中で生産を行う。それによって世界各国の富の創造に貢献し、あわせてそこで得られた利益を国内にも還元し、次なるイノベーションを生むための資金とするというサイクルを拡充する方向が目標となる」とする。経済活動のグローバル化の中で、日本が存立していくためにはあらゆる分野で門戸を開放し、内外のヒト、モノ、カネ、情報の活用によって国内を活性化させ、世界に通用する産業・企業の育成をめざすというのである。
 最近では、とくに中国の経済活性化と巨大な市場形成を通じて、日本からの輸出が増加し、それに対応する日本の国内での設備投資が増え、景気回復に寄与するものとなっているとして、中国進出を産業空洞化の要因と見なさないようになってきた。中国産業の発展に対抗するには、先端技術による高付加価値製品開発が必要として、国内での新鋭工場建設の大型設備投資を行って、多国籍企業の新たな国際分業体制の構築が、日本産業を発展させる要因と強調されるようになった。ここでは「空洞化」という認識そのものが拒否され、産業と生産拠点のグローバルな配置、すなわち国際的な分業体制の構築と変動、それによって引き起こされる産業構造と地域経済の変動が産業空洞化を引き起こすことになったとしても、それは経済と産業の発展にとって必然的な過程として理解されるべきものである、と強調されている。
 日本経団連の「04年版経労委報告」は、グローバル化の進展のなかで事業の継続が困難になるような中小企業には、変化に対応する能力を欠いたものとして、市場からすみやかに退出することを求め、また、すべての企業に雇用の多様化と流動化、総額人件費管理の徹底、賃金水準の引き下げによるコスト削減を通じて企業体質を強化するよう求めた。さらに、賃下げの強行による生活破壊に対しては、家計消費の「構造改革」で対応すべきだと、労働者・国民の生活のありかたにまで踏み込んでくる。
 こうしてグローバル化の展開が、「景気回復」や新たな大型設備投資をもたらしたとしても、それは大企業の利益を潤すだけで、地域経済を歪め、中小企業の選別淘汰、コスト削減のためのさらなる低賃金不安定雇用への切替え、労働者の雇用と生活破壊の新たな展開をとどめるものとはならない。これまで特定の地域や産業・業種に被害を与えてきた産業空洞化が、拡大された社会の全般的な問題となった。産業空洞化は新たな展開を見せている。
実態を明らかにして新たな産業空洞化を阻止し、また財界・大企業の横暴を規制して国民生活中心の地域経済と国民経済の再生を図ることが差し迫った課題となっている。そのために、ここに産業空洞化に対する新たなとりくみ強化への提言をおこない、国民諸階層の共同を広く呼びかけるものである。

2、労働者の暮らしと雇用、日本経済を破綻に導く産業空洞化の実態
 製造業の海外生産比率は、1990年の6.4%から2002年の18.2%に増加し、海外進出企業についてみると、同時期に17%から37.2%に大幅に増え、2002年の海外現地法人の売上高68.5兆円は、輸出総額52.1兆円を大きく上まわった。多国籍企業は低コストの中国や発展途上国に生産拠点を移転して、そこで生産した製品を日本国内に逆輸入することによって、海外下請企業と競合する多くの国内下請中小企業を倒産・廃業に追い込み、部品の国際的な最適地調達システムへの切替えをすすめている。従来の「条件は厳しいが継続的に仕事が保障された系列下請システム」を解体して、多くの国内下請中小企業を国際的な単価引き下げ競争にさらし、膨大な下請企業を選別淘汰する。大企業の企業城下町をなした工場の海外移転は、地域の雇用と産業経済を破壊するが、このことは地方自治体財政にも深刻な打撃を与えてきた。
 規制緩和、市場原理の徹底を目指し、大企業の利益優先の経営戦略に奉仕して、産業構造の高度化を図る小泉構造改革は、その結果である産業空洞化、地域社会の衰退について、情勢の変化に適切な対応をとらなかったとして、中小企業や労働者にその責任を押しつけ、財界・政府は責任をとろうとしなかった。
 大企業は、産業空洞化で労働者と中小企業に犠牲を押しつけ、他方で、好調な海外生産・販売の好調によって史上最高の1兆円の純利益を手にしたトヨタをはじめ、多くの企業が高利潤、高蓄績を実現した。2003年の自動車5社の生産は国内では2.5%減に対し、海外生産は13.6%の大幅増となった。電機大手9社の03年10〜12月の連結決算は8社が増収、7社が増益となり通期で全社が黒字を予測している。こういうもとでも、賃上げなし・定昇廃止、賃金制度改定での賃下げ、人員削減と不安定雇用への置き換え、違法なサービス残業などの労働者への犠牲押しつけ、中小企業には下請単価引き下げが、下請はずしの脅迫のもとで強要されるという事態が、新たなグローバル戦略の中でさらに強まろうとしている。
 製造業大手企業は、03年度までにリストラに一定のメドをつけ業績を回復させたが、業界最高水準の営業利益確保の目標を達成するために、購買コスト削減を厳しく進めるとの姿勢を崩さず続けるとしている。日産自動車は、99年からの「日産リバイバルプラン」の部品や資材の調達費20%削減を前倒しで達成したが、取引先の削減や仏ルノーとの車台共通化などで調達コスト削減を加速し、さらに15%減らす次の3か年計画も実質2年で達成させるとしている。ソニーは05年度までに取引先の数を従来の1700社から1000社に絞り、部品点数も84万点から10万点に減らして購買価格を削減する、キヤノンは現在世界に約6000社ある部品・資材の取引先を半減させ、02年の連結ベースで総額年1兆1000億円あった部品・資材の調達費を06年までに1100億円圧縮する計画などが提示されている(日経新聞04.5.26)。今後、大企業のグローバル経営展開がすすむなかで、中小企業の整理・淘汰がさらに強まり、産業空洞化の被害が全般的に拡がることが必至である。

3、新たな段階に至った産業空洞化
 貿易摩擦と円高を回避し、コスト削減のための生産拠点の海外移転とリストラで、労働者と中小企業に産業空洞化の被害を押しつけながら、多国籍企業化をすすめた大企業は、アメリカ・中国・アジアなどの世界市場での需要拡大をテコに、多国籍企業主導の長期不況からの回復を見せ、労働者と中小企業を置き去りにした二極分化の方向を示した。
 個人消費、家計消費、地域経済の回復を置き去りにし、不安定な要素を持つアメリカや中国の成長など、海外頼みの景気回復のリスクを乗り切るために、多国籍企業体制の本格的な構築をめざし、グローバルな最適地生産、最適地調達による構造転換を図ることで、産業空洞化は新たな展開の段階を示すに至った。
 大企業は中国の技術発展によって、ハイテク分野や技術開発部門などを含めて、現地生産の範囲を拡げ、産業空洞化の要因をなす日本国内との生産調整を広げる一方、急速に発展してきた中国市場の需要に対応して、建設資材はじめ日本国内での生産を増加させている。とりわけ先端技術製品の生産については、技術の漏洩を防ぎ、技術の優位性を保つ必要から国内生産を重視し、新たに大規模な工場建設投資が行われるようになってきた。人件費の割合が高い組立ライン部門は海外に移転しても、設備・装置や開発に資金がかさみ人件費の比率が低い高度技術の製品部門は国内生産の方が有利だといったことから、中国進出と現地経済の発展が、日本の産業を空洞化させることはなく、逆に、中国の発展が日本国内の設備投資を増加させ、生産回帰をもたらすといった産業空洞化否定の論調さえ見られるようになった。
 しかし、地域経済と中小企業破壊の産業空洞化をもたらした大企業の利益本位の多国籍企業化推進政策を変えることなく、国際市場でより有利な立場を占めようと、最適地生産、最適地調達の観点から国内生産が位置づけられるようになったとしても、それは生産の国内回帰でなく、世界市場をにらんだ特定部門の供給基地の再配置でしかない。日本経団連の「メイド・バイ・ジャパン」を掲げた「東アジア自由経済圏」構想の一環であり、地域経済や中小企業は、アジア・中国とのコスト競争により強く巻き込まれることになり、地域に密着した中小・地場産業の存立基盤は、いっそう掘り崩される危険が大きい。日本経団連は、この戦略を進めるために、「04年版経労委報告」で「事業継続が困難な中小企業に対しては……市場から退出させる仕組みを考える」と、中小企業の選別整理の促進を提起して、政府にその施策を求めている。
 こうして、いま産業空洞化は新たな段階に至ろうとしている。この流れに歯止めをかけなければ、深刻な停滞状況にある地域経済と、中小企業が支えてきたものづくり産業基盤の崩壊を避けることができない。

4、なぜ日本で異常な産業空洞化が進行するのか
 日本におけるような異常な産業空洞化が、欧米先進資本主義国では見られないのはなぜだろうか。そこに日本の大企業の横暴と、ルールなき資本主義の実態がある。

1)発展途上国の低賃金利用による円高・コスト上昇の回避
 円高による輸出価格上昇、とりわけ労働コストの上昇を回避するために、賃金の安い中国やアジア諸国に生産を移転するという企業行動に対する社会的な規制が欠如している。

2)多国籍企業化で地域経済、中小企業を無視した大企業の横暴
 経済のグローバル化のなかで、大企業は円高を背景にして、輸出に代えて現地生産に重点を移し、多国籍企業として、国境を超えて利益本位の自由な行動がとれる体制の確立を図った。利益と結びつく限り、母国の国民経済や地域経済を破壊することがあってもかえりみない貪欲さである。大企業はこれまで下請中小企業の系列支配の機構や、企業城下町をつくることで大きな利潤を手にしてきたにもかかわらず、グローバルな多国籍企業化の戦略にあわなくなれば、一方的にこれを解体して、いっそうのコスト削減、単価切り下げ競争を押しつける。

3)財界・大企業のグローバル戦略に結びついた政府の政策
 歴代自民党政府が規制緩和、市場原理の徹底の構造改革政策を進め、アメリカの世界戦略に追随しながら、財界・大企業のグローバルな経営展開の条件を整備し、国民の犠牲で、多大な財政支援を続けてきたことが空洞化を加速させる力となった。この過程で、財界は政治献金などを通じて、政府に「自由化・規制緩和」の構造改革を強行させた。「規制緩和政策」は、日米安保体制のもとで、アメリカの世界戦略に追随しながら、大企業が多国籍企業化をすすめて、中国、アジアをはじめグローバルな最適地生産、最適地調達で最も効率的に利益を上げる体制づくりと不可分である。
 市場原理と企業競争徹底の規制緩和と構造改革政策を強行し、中小企業や地場産業の保護育成の制度・施策、地域金融機構を解体し、大企業の市場支配への道を作ったことが、産業空洞化を加速することとなった。

4)日本における多国企業規制の弱さ
 ヨーロッパに見られない異常さは、多国籍企業への規制が極めて弱く、「規制がない」とさえいっていい日本社会の状況から生まれている。ILOやEUの基準では、海外生産や工場閉鎖などの場合は、労働組合や従業員代表との事前協議が義務づけられ、違反すれば裁判でも負ける。また海外への生産移転をする場合でも国内雇用は保障する、工場閉鎖の場合は代替雇用を保障するなどの規制をうけることが多い。
 日本では、法的・社会的な規制がまったくといっていいほどない。大企業が自由に海外への生産移転や工場閉鎖ができる。日本の大企業の労働組合は、それを容認・支持してきたのが実態である。
また私たち自身の反省だが、産業空洞化の課題に対して、ナショナルセンターを含む日本の労働組合運動が十分とりくめてこなかったことが、空洞化を加速したといえよう。

5、産業空洞化は克服できる−私たちの視点
 日本における産業空洞化が、国際的にも異常な展開をしてきた要因が明らかにされれば、それを取り除き是正することで、産業空洞化は克服することができる。

1)経済のグローバル化イコール産業空洞化ではない
 経済のグローバル化イコール産業空洞化ではないと考える。産業空洞化は、「利益のためには国も捨てる」という国民に背を向けた多国籍大企業の無責任な企業行動、それを推進する「構造改革」という名の規制緩和路線によりもたらされた「人災」である。したがって、適切な経済政策と企業行動に対する規制・誘導によって産業空洞化は克服できる。
 「経済のグローバル化」という名で、国際的な金融取引に走って膨大な損失を出した日本の金融機関、バブル経済に踊って、「ものづくり」より株、土地、ゴルフ場、リゾート開発投資にのめり込んだ日本の多くの経営者。その結果が、バブル経済の崩壊によるリストラ・失業、医療・年金など社会保障の切り捨て、「不良債権処理」による中小企業の淘汰、ゼロ金利などの異常事態につながっている。この被害を一番うけているのが、労働者・国民である。
 現在もアメリカ型の「株主資本主義」に流され、「株主」への利益配当こそ最大の企業目的として、ものづくり企業としての着実な利益率を度外視し、人減らしリストラを中心に、企業の売買、分割、分社化、営業譲渡、アウトソーシングなどで、目先の利益追求に走っている企業が多い。
 この事態を利用して一番利益をあげているのは、アメリカ資本はじめ外資である。リップルウッドが日本長期信用銀行をわずか10億円で買い取り、短期間で巨額の利益を手にしたのは、その典型であるが、外資は日本の「ものづくり」を支えてきた中堅・中小企業にまで、買収や技術提携による支配の手を伸ばしている。それは不況・株価低迷、産業空洞化のなかで日本企業の資産価値が低下し、外資にとって絶好の「買い場」になっているからである。外資の方が、日本のものづくり、金属機械製造業に魅力を見いだしているとも言える。実に皮肉な現象だが、私たちはそこからも教訓を学びとらなくてはならない。
 国民の生活、雇用(仕事)と福祉こそが、国の経済政策の目的でなければならない。それには、国民経済の安定的発展という視点が不可欠であり、国民経済を衰退させる企業行動を規制することである。地域経済の支え手は中小企業であり、国民経済の再生は地域に根づき、生活と密着した中小企業の活性化と不可分である。そこに産業空洞化克服の道がある。
 また、地球環境の破壊が深刻化するなかで、「持続可能な成長」と、それと深い関係を持つ「企業の社会的責任」は、国民世論と社会の流れとなっている。この視点から、日本資本主義のあり方が、この流れに沿って検討されるべきである。

2)ものづくり、とりわけ金属機械製造業を中心産業として位置づけること
 空洞化を阻止するには、日本経済の釣り合いのとれた発展が必要であり、「国民経済」という視点が欠かせない。資源・原材料を他国に求める日本では、それを加工、製品化する製造業、特に、金属機械製造業が経済を支える役割を持つ。金属機械製造業のすそ野は極めて広く、1000万人の労働者・国民が従事している。多くの中小企業が優れた技術でそれを支え、その集積が産業の基盤をなしている。日本経済の土台を支えている金属機械製造業をまもり育てること、中小企業の地域産業集積を活性化させることこそ、経済・産業政策の基本とすべきであり、その産業空洞化を放置することは許されない。

3)人件費削減では達成されない国際競争力強化
 財界・大企業は国際競争力強化を人件費コスト削減に求め、人減らし・賃金と労働条件引き下げのリストラに狂奔し、安い労働力を求めて生産拠点の海外移転を拡げ、産業空洞化を招いてきた。しかし、国際競争力に大きなウエイトを持つのは、技術力や商品の信用力であり、それには人材と働く条件の確保が欠かせない。人件費削減中心の競争力強化では、技術・技能労働者を軽視する政策は競争力を失わせるだけである。 

4)大企業の社会的責任を果させること
 利益優先の生産拠点の海外移転など、国内産業の空洞化で国民経済を歪め、地域経済、雇用と生活を破壊してかえりみない大企業の行動は、社会的責任の放棄であり、企業倫理に背くものである。利益本位で大事故や不祥事を頻発させた大企業の横暴に、社会的批判が広がっている。また国際的にも、ISO(国際標準化機構)で企業の社会的責任(CSR)の国際規格が検討されるという状況に対応して、日本経団連は「04年版経済労働政策委員会報告」でも、利益追及だけでなく「よき企業市民」としての企業活動を提起し、2004年5月18日には、企業行動憲章の改定を行わざるをえなくなった。
 こうした企業の社会的責任を具体的に追及するとりくみが、労働組合のナショナルセンターや産業別組織による広範な国民との共同した運動のなかで強められなければならない。

6、可能なことから急いで進めよう−当面のとりくみ課題
 上記の観点に立った取り組みの強化によってこそ、国際競争力も生まれ、空洞化の要因をなくすことができる。そのために、いますぐにとりくめる課題を次に掲げる。
 財界・大企業は国際競争力強化を最優先にして、利益第一主義で、とくに、中国、東南アジアなど途上国に低賃金労働と低コストの資源を求めて生産拠点を移し、国内工場の閉鎖・統合と人員整理、下請中小企業の切り捨て再編、低価格の現地産品の逆輸入などで市場を奪い、中小経営を破綻させ、失業増大・雇用破壊など、地域産業の産業空洞化を著しくすすめてきた。それは国民生活を落ち込ませ、不況を長期化させた。大企業は多国籍企業化を強めることで利益を追及し、生産部門だけでなく研究開発部門も海外に移転させ、新たな最適地調達システムの展開によって、地場産業、下請中小企業の破綻を加速させている。このなかで、財界は途上国並みへの賃金水準の引き下げと春闘解体、人減らしによる労働強化と低賃金不安定雇用の拡大などの攻撃を強め、労働者の権利と組織を破壊している。このことが国民や労働者の生活水準を切り下げ、かえって、不況を長期化させることになった。しかも、熟練労働者を大量に整理したり、金型のように中小企業が蓄積してきた技術を大企業が海外に流出させることは、日本の製造業を支えてきたものづくりの基盤を失わせ、製造業の基礎を揺るがすリスクを増大させている。
 大企業にとっては景気回復・利益増でも、中小企業と労働者・勤労市民にとっては不況の被害は長期化していくという景気の二極化の中で、生活と雇用を守るために産業空洞化の進行を食い止めることは、いま差し迫った緊急の課題となっている。産業空洞化を阻止することが、国民経済の民主的再生への条件をつくるものであり、みんなでとりくめる具体的な課題をとりあげて、広範な共同によって追求するならば、困難に見える闘いに展望を開くことができる。

1)大企業の社会的責任を果させる
 大企業の横暴に対する規制の弱さが、日本の産業空洞化を、ヨーロッパ諸国に見られない激しいものとしているのであり、空洞化に歯止めをかけるには、大企業に社会的責任を果さたせる民主的規制がどうしても必要である。大事なことは、国連やILO、EUなどの多国籍企業に対する規制を日本でも適用させることである。
 具体的には、生産の海外移転については、労働組合、地域の関係団体、地方自治体に対して、計画段階から情報を開示させ、事前協議を義務づけることを基本とする。とくに、工場誘致などで地方自治体と地域住民の多大な負担や優遇をうけた大企業が、一方的に撤退するなら、それによって地域が受ける被害に対する一定の補償、代替雇用の保障、地元企業との取引の継続などに、地方自治体での条例化もふくめてとりくむべきである。

2)魅力ある金属機械製造業をつくり、人材を確保すること
@いま中国で金属製造業に働く労働者を見ると、産業と技術の発展に対する意欲と熱意が、日本の労働者と違うと多くの研究者がいう。また、優秀な大学卒業の技術者などが、ほとんど製造業に就職するという。新たな技能や技術、知識の吸収など、日本の高度成長時代を思い出させるようである。
 それに比べて、日本の金属機械製造業は、3K(きつい、汚い、危険)職場で、給料が安いとして青年から敬遠され、優秀な学生は、官公庁や金融機関などに多く職を求めていく。これは日本の金属製造業が、労働条件や仕事の環境の悪さなど、魅力に欠けているからである。とくに、中小企業の置かれたきびしい環境は、経営者ですら「子供に後を継がせたくない」という状態が拡がっている。この点の改善が必要であり、ものづくり企業、中小企業が適正な利益をあげることのできる条件づくりが重要である。
Aしかし、そういうなかでも、金属製造業のものづくりに魅力を感じた青年が、職場に次々に入ってくるという事実もある。それは「ものづくりは、自分の知恵や工夫で、大きく変化発展する」ということを、様々な機会で掴んだ若者たちである。どんなにきびしくても、金属機械製造業には発展があり、この職場は金属労働者自身が守るという誇りを持って働きつづけることが大切である。
産業に占める金属機械製造業の重要さからしても、魅力ある金属機械製造業・ものづくり企業の発展を国の経済政策の基本とするとともに、それを国民的な合意にまで高める必要があり、そして人材が確保できるようにしなければならない。
Bものづくり技術・技能の伝承では、大企業における国際競争力強化のコスト削減を狙う「成果主義」管理強化によって、「後輩に教えない」という風潮の広がり、また低コストの不安定雇用労働者への切替えによる技能蓄積が困難になるなど、職場における「技能養成システム」の崩壊に歯止めをかけることが必要になっている。また中小企業の技術的衰退が深刻になっており、中小企業の後継者や技術・技能者養成の公的・協同の職業訓練システムが必要になっている。これは青年の就職困難の状況からも、有給で受講が可能になる措置がとられるようにすべきものと考える。
金属機械製造業は夢があり、今後も発展する産業である。科学技術の進歩が、正しく労働者・国民のために役立てられれば、それは地球世界の生活、文化の向上と平和に結びつくものである。このような意味をもつ金属機械製造業としての振興策が求められる。

3)中小企業の自立化、異業種交流、共同化の推進
 多くの中小企業が、大企業からの際限のない単価引き下げの強要や下請取引の一方的打ち切りなどで経営困難に陥っているが、これは下請中小企業が、親企業を離れて存立できない従属的な弱い立場に置かれてきたことに原因がある。そのために親企業の生産の海外移転は、下請中小企業にとっては仕事を失うことであり、経営の死活の問題に直結する。
 こういう事態に対しては、最近、適用範囲を拡大し規制強化が図られた下請二法を厳格に適用させ、公正な取引関係を保障させるなどして大企業の不当な下請いじめをなくさせ、さらに下請振興基準や下請代金法などに、より強い強制力を持たせる制度への改定を求めることである。
 産業空洞化に抗するには、中小企業が自立していける事業分野と市場の開拓が重要である。しかしこれを中小企業が単独でおこなうには無理が伴う。中小企業のネットワークをつくり、異業種交流や共同化で新製品、新技術の開発、そして市場の確保をはかるとりくみを、IT技術も活用してすすめることが重要である。なかでも異業種交流は、単独では不可能な発想や技術の活用など、すでに注目すべき成果を生んでいるが、これらの自立化を支援する施策を政府・自治体にも強く求めることである。
 競争が厳しく、企業間の利害対立が生まれやすい中小企業の異業種交流や共同化については、地方自治体などの公的機関がコーディネートするなど積極的支援をおこなうことで、このとりくみが前向きにすすむ要因となる。また、中小企業単独の技術開発には大きな限界が伴う。中小企業と大学で相互の技術や設備の提供、開発委託、事業化などがおこなえるよう自治体の援助が必要である。中小企業のマネージメントについての援助も重要である。これを援助するものとして、地方・地域の大学や研究機関との提携をおこなう「産学連携」や地方自治体による「技術支援センター」、「マネージメント(経営)支援センター」などが重要であり、その創設、整備・拡充にとりくむ必要がある。

4)賃金・労働条件の社会的基準の確立
 配転・解雇規制や賃金・労働条件の最低規制が弱いことが、人減らし、賃下げや低賃金不安定就業への切替えなど、大企業の横暴勝手を許すことにつながっており、このことが産業空洞化をもたらすような大企業の生産拠点の海外移転や、地場産業破壊の低価格現地産品の逆輸入を強行させる要因となっている。これに対して、生計費原則に立った全国一律最低賃金制のナショナルミニマムとしての確立、それを基礎にした賃金・労働条件の社会的基準の形成と、その上に立った下請単価の遵守が義務づけられれば、産業空洞化をかえりみない大企業の横暴を違法なものとして規制することができるようになる。
 労働組合のとりくみとして、最低賃金制や産業別・業種別の統一基準に基づく労働協約締結等で労働条件の最低規制の強化を図り、中小企業にも適正利潤を保証する工賃設定への社会的条件をつくり上げるよう努力すること、また中小企業団体の地域・業種での組織化をはかり過当競争をなくし、中小企業が大企業との対等な交渉力を持てる方向をめざすことが必要である。

5)地域経済の活性化の推進
 中小企業の自立的な発展のためには、その基盤になる地域経済の活性化が不可欠である。地域経済と地域住民の生活と雇用の担い手は中小企業であり、中小企業の衰退は地域経済の破壊をもたらす。両者は不可分の関係にある。この関係を捉えて、両者の活性化を具体的に進めるには、労働者・労働組合と地域の諸組織との広範な共同の取り組みが欠かせない。同じ課題を追求する地方自治体や政党、産別・地域の労働組合、中小業者組織やNPOを含む市民団体など広範な共同の力で、「地産地消」や「地域ブランド」などをふくめ、中小企業の経営の基盤となるような地域需要の創出、地域経済を活性化させる地域金融機関の役割、自治体の施策などを明らかにした「地域経済振興計画」を具体化すること、こうした取り組みの推進が、産業空洞化に抗して、地域経済を再生させる力となる。

6)ものづくり中小企業への政府・自治体の支援の強化
 産業空洞化を克服していくには、政府・自治体の中小企業への支援強化が重要になってくる。いま政府の中小企業政策は、社会的に弱く差別された状態にある中小企業の現状を改善するための助成から、自助努力で開発・創業に挑戦するベンチャー企業支援に重点が移り、これまでの「ものづくり」の基盤を支えた中小企業を整理淘汰し、熟練基盤技術を軽視するものとなっている。産業と経済の基礎をなす「ものづくり」の振興支援に、国と地方自治体、財界のとりくみを強化させることが、産業空洞化阻止のために重要である。
 中小企業の自立的発展こそが、日本経済を健全に発展させていく。これを支援する財政的金融的な援助が必要であることは当然だが、同時にこれを担う人材の確保、育成にとりくむことが必要である。そのために、中小企業対策予算の抜本的増額を政府・自治体に求める。
 人材確保の上で、「解雇規制・労働者保護法」など、大企業の民主的規制に踏み込むことが重要である。アメリカ型の「株主資本主義」では、日本経済の未来は描けない。世界の流れをみても、ヨーロッパをはじめ新たな経済的システムをつくり始めている。日本においても、ものづくり中小企業の重要性を明確にした「中小企業憲章」を制定し、中小企業支援強化の方向に政府の経済政策を転換させ、国民経済の再構築を目指す必要がある。労働組合もこれをめざす産業政策を検討し、広範な力の結集にとりくむ。
 
7)国際的な共生関係の追求と労働者の連帯
 産業空洞化をもたらした日本の大企業の海外進出は、現地の低賃金利用と環境軽視による低コストを求めた利潤第一主義のあらわれであるから、利益確保の条件が落ちれば、さらに有利な地域に移動して、現地社会に混乱を与えてきた。利潤第一主義でなく、相手国との平等互恵の共生関係を追求する必要がある。
 現地労働者の団結と権利を海外進出大企業に妨害させてはならない。国連の基準や国際労働基準であるILO条約・勧告をまもり、国際的に連帯して格差縮小に努力することが課題であり、現地労働者・労働組合との連携・協力の強化を図る。このとりくみが前進するなら、高利潤をめざして国内に産業空洞化を引き起こしてまで生産を海外に移転する資本の利点は減少する。国内においても、労働者を保護する法律や労働協約で、企業の違法・横暴な解雇や人権侵害の労働力の流動化と差別、ただ働きサービス残業などを規制し、「働くルール」を確立していくことが、産業空洞化の展開を阻む力になっていく。

 以上に提起した課題を、地域経済の再生を視野において、アジアとの共生を求め、企業の社会的責任を明らかにして広範な共同を組織し、その力をもってとりくむなら、産業空洞化を阻止し、雇用と生活を守る国民経済再生への展望を開くことが可能となるに違いない。このことを確信を持って訴えるものである。